岩手県九戸村で、立体農業に取り組んでいる胡桃農家さんがいると聞いて、昨年、新緑が美しい6月に伺った。
緑の山間を抜けていくと、真正面に大きな胡桃の木々と赤い屋根のサイロが現れる。そこが、小井田立体農業研究所だ。研究所といっても、ご家族だけで営んでいる農家さん。迎えてくださったのは、小井田重雄さんと、息子さんの寛周さんだ。
開口一番、重雄さんは私たちに「野良猫がいるけど、大丈夫すか?」と尋ねる。大丈夫なんてもんじゃないです。大大大スキです💕
建物の中に入ると、腰くらいの高さに積まれた藁の上で、数匹の猫が気持ちよさそうに寝ていた。
小井田さんのところには、現在12匹の猫が住みついているという。猫たちは、私たちが近づいても逃げることなくこちらを見ている。「野良猫」なんて言ってたけれど、小井田さんたちが大切に育てている証拠だ。
さっそく農園内を案内してくださる。2.7ヘクタールの緩やかな傾斜地に、胡桃の木が50本ほど点在している。その木の下では、乳牛9頭が放し飼いにされていた。牛には草を食べてもらうことで除草の役割を。さらに牛の糞は良質な堆肥になり、胡桃の栄養分になっているという。
「牛に近寄っても大丈夫ですよ」と言うので近づいてみると、牛さんたちは後ずさりしながらどんどん離れて行ってしまう。「いつもと匂いが違うと思ってんのかな」と重雄さん。何度試みても結果は同じ。「あーあー、牛さんにすりすりしたかったのにね」とがっかりの私たち。
牛のほかに、アローカナをはじめとするニワトリ80羽も飼っている。
「この時期はキツネによる被害が多くて、小屋へ避難させていました。キツネの子育てが終わる7月頃から、自由に遊ばせて土の中の虫をとってもらいます」
害虫駆除は、ニワトリさんたちの役目なのだ。そして、先ほどの猫たちは、胡桃泥棒のリスを追い払うという重要な任務を任されているという。
こうした自然循環の中で、無農薬、無化学肥料の「胡桃」「牛乳」「自然卵」を生産している。この自然循環型の農業のことを、小井田さんは立体農業と呼んでいる。
「うちの親父が立体農業をやり始めたのは昭和26年。胡桃の木を植え、その4年後に乳牛を導入して、昭和52年からは鶏を飼い始めました。この形になって40年くらいになります。当時は近代農法をどんどん進める時代だったから、どちらかというと時代の流れに逆行して小馬鹿にされていました」と重雄さん。最近になって、立体農業の素晴らしさがようやく見直されてきたという。
小井田さんの胡桃は、お菓子などによく使われる手打胡桃とか樫胡桃と言われる品種。国産の胡桃はどんどん減っているため、とても貴重なのだ。収穫は9月末から10月中旬にかけて。木から落ちた胡桃を拾い集め、水洗いして天日干しで乾燥させる。
いよいよ試食タイムということで、農場の一角にある事務所に移動。殻付きの胡桃を割って、中身をそのままいただく。ローストしていないというのに煎ったように香ばしく、コクがあって、ほんのわずかな苦みも。「なんて美味しい胡桃なのかしら」と私たちの手はやめられない止まらない。
「胡桃は酒のツマミにも最高なんです。胡桃を食べながらだと二日酔いをしないと言われてますから」
なんとー。それは初耳。ならば、バーとかで是非とも胡桃をメニューにのっけていただきたい。お客さん自身に胡桃の殻を割って食べてもらえばいいのだから、手間いらずだし。なんて話していたら、焼酎と砂糖で漬け込んだ自家製の胡桃酒を出してくださった。皮ごと漬け込んだ胡桃酒は、見た目はプラム酒のよう。私は運転担当なので、代表してマダム怜子が試飲する。
「見た目もだけど、味もプラム酒よ」とマダム怜子。そのうち、「小井田さんの牛乳で割って飲みたい」と言い始め、それをグビグビ飲みながら「おいし〜っ! これはカルーアミルクだわ」とひとり感動していた。
「胡桃酒を牛乳で割って飲んだ人、初めて見ました」とニヤニヤしながらマダムを見つめる小井田さん親子。
と、ドンドンと誰かがドアをノックする音が。玄関に行ってみると、そこには、さっき逃げていた牛さんたちの姿が!!
「かわい〜〜〜っ!! 訪ねてきてくれたの??」
マダム怜子と私はもう大感激。ここは夢のような場所なのだ。
「また絶対に来て、キャンプでいいからここに泊まります」と小井田さんにお伝えし、後ろ髪を引かれつつ次の取材先へと向かったのでした。
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