それは昨年の夏のこと。うだるように暑い金沢への旅の途中に大好きな骨董店に立ち寄った。商品のセレクトがとても素敵なマダムから、「高梨さんのガラスは素敵よ」とご紹介いただき、さっそく小松市の丸八棒茶のギャラリー&ティーサロンに伺った。
ちょうど、高梨良子(たかなし・りょうこ)さんのガラス器の展示会をやっているとのことだった。広くてシックなギャラリーには、涼しげなガラス器が並び、そのどれもが素晴らしくて一瞬で目が釘づけになった。
モダンでセンスが良い。それだけなら他にもたくさんの作家さんがいるだろう。高梨さんがすごいのは、センスだけではなく技術的に完成度が非常に高いこと。
だからこそ、端正な美しさが際立つ。ぐいのみと酒器、中国茶に良さそうな小ぶりの茶器、タンブラー。使いやすい大きさのボウルやプレート。一輪挿しの花器。ペーパーウエイト。ガラスの半球体が連なった箸置き、カトラリーレスト。
どれもが、実用のものでありながら、凛と美しいフォルムと色彩を持つオブジェのようだ。私が特に気に入ったのは、風車のような羽模様が連続して回っているデザインのプレートやボウル、タンブラー。
色彩は、透明な地に黒、暗い赤、白、青の4色展開が多い。コンテンポラリーで個性的に見えるのは、圧倒的に黒と暗い赤だ。聞けば、それらの器はフランス版ヴォーグでも紹介されたという。
日本ではガラスといえば、多分涼しげな青や白が人気だろう。でも、それだけでは予定調和すぎてしまう。青や白を否定するわけではない。でも、日本的な青や白を超えたところに高梨さんのガラスの魅力があると思う。
現実の高梨さんはとても気さくな人である。ハードなガラスを吹く人にはとても思えない。アーティストです、という看板を楽々と外し、職人さんのように淡々かつ飄々と作っている。
アシスタントもおらず、たった一人でガラスに向き合っている。その孤高の人の作品を身近に使える幸せをぜひ味わってほしい。なんの変哲もない自分の料理が、今日の一杯が、特別のものに見えるから。
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